A SONG CROSSES THE SEA

1980年の夏は、
まだ終わっていない。

松田聖子「青い珊瑚礁」

2026年2月22日、韓国・仁川。
イントロが流れた瞬間、客席が沸いた。
46年前の、日本の歌。
客席の多くは、この歌より、あとに生まれた人たちだ。
それなのに——みんな、歌える。
話は、1980年の夏から始まる。

画像:YouTube「松田聖子 青い珊瑚礁 動画 1980」(帝野光月チャンネル転載)より

THE SONG / 1980

1980年、夏。

1980年7月。デビューからわずか3か月の新人が、2枚目のシングルを出した。 その2枚目が、この歌だ。

「青い珊瑚礁」松田聖子

歌唱映像(帝野光月チャンネル転載・非公式。映像の収録時期は記載なし)松田聖子の部屋へYouTube

この曲は、新人を一気にスターへ押し上げた。
のちに韓国の新聞が「輝いていた青春のBGM」と紹介することになる歌は、
この夏に生まれた。

同映像より。歌の終わり、客席へ手を振る

ここから、44年とぶ。

TOKYO DOME / JUNE 2024

イントロだけで、
大歓声が起きた。

2024年6月26日、東京ドーム。デビューから1年11か月、海外歌手として史上最速でこの場所に立った、韓国の5人組ガールズグループ・NewJeans。 初めての単独日本公演、そのソロステージの最後に、HANNIがひとりで現れた。

イントロが流れる。彼女がこの歌を選んだと、まだ誰も知らない。 その瞬間に起きたことを、公演レポートは「この日一番の大歓声」と記録している。

ORICON NEWS 公演レポート(2024.6.27)↗NewJeans公式 公演日程 ↗

歌声そのものは、10日後のテレビ出演の映像で。

「青い珊瑚礁」HANNI(NewJeans)

日本テレビ系「THE MUSIC DAY 2024」歌唱場面(ファンチャンネル転載・非公式)NewJeansの部屋へYouTube

そしてこちらが、6月26日当日の東京ドーム。

歓声ごと。

「青い珊瑚礁」東京ドームの客席から

Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome Day2(観客撮影・非公式)YouTube

なぜHANNIはこの歌を知っていたのか

「私が歌った曲、
皆さんびっくりしましたか?
代表がオススメして
くれた曲なんです」

— HANNI。東京ドームのステージで(ORICON公演レポート

「代表」とは、NewJeansを手がけたプロデューサー、ミン・ヒジンのことだ。

1980年の歌を、誰かが見つけて、若い歌い手に手渡した。 起きたのは、それだけのことだった。

歌は、勝手に動きはじめる。

ACROSS THE SEA / JULY 2024

ひと月後、ソウル。

2024.07 — SEOUL

KARAOKE J-POP CHART

青い珊瑚礁

韓国カラオケ機器大手クムヨンエンターテインメント・日本曲チャート(聯合ニュース 2024.7.16

東京ドームで聴いた歌を、韓国の人たちは今度は、自分の声で歌いはじめた。 クムヨン公式のカラオケ映像は、リアルタイム再生回数でも1位になった。

ところで——この歌が韓国に渡ったのは、2024年が最初ではない。

「J-POPが韓国で正式に流通する前から、ひそかに韓国の音楽ファンの間で人気を集めた」。 聯合ニュースはこの曲を、そう紹介している。

HANNIは、火をつけたのではない。
ずっと残っていた火種に、大きな風を吹かせた。

そして今度は、本人が海を渡る番になった。

INCHEON / 2026.2.22

デビューから45年。
初めての、韓国公演。

会場は仁川のインスパイアアリーナ。45周年ツアーの中で唯一の海外公演であり、ツアーの締めくくりでもあった。

公演の前、松田聖子は韓国メディアの書面インタビューに、こう答えている。

「韓国の皆さんと『青い珊瑚礁』を大合唱したい」

朝鮮日報日本語版(2026.2.18)。「韓国の大合唱文化は本当に素敵」とも

開演、午後5時。

イントロが流れると、大きな歓声が上がった。

白いワンピースに、ピンクのリボン。

松田聖子がステージに現れると——

客席は、大合唱で応えた。

冒頭の歌唱映像より。若き日の松田聖子、歌い終わりの一礼

冒頭の歌唱映像より。若き日の松田聖子、歌い終わりの一礼

この若い日のお辞儀から、仁川の大合唱まで——
何十年もの歳月を、この歌は旅してきた。

「歌は聞く人が変わるたびに
新しい表情を帯びると思う」

— 松田聖子(朝鮮日報の書面インタビューで)

AND NOW / 2026.8.18

この話には、続きがある。

つい先日——2026年8月18日。韓国の兄妹デュオAKMUのイ・スヒョンが、「青い珊瑚礁」の公式リメイクをリリースした。 今度は、韓国語の歌詞で。

「푸른 산호초(青い珊瑚礁)」イ・スヒョン(AKMU)

「J-POP REMAKE」プロジェクト第3弾・公式MV(2026.8.18)YouTube

46年目の夏、この歌は韓国語でも歌われはじめた。

最後は、この旅に風を吹かせた人たちの歌で。

NewJeans「Ditto」。過ぎていく時間と記憶を、古いビデオカメラの画でつづったミュージックビデオだ。 44年前の歌を2024年へ連れてきた彼女たちは、自分たちでも、時間の歌を歌っている。

「Ditto」NewJeans

HYBE LABELS公式(2022)NewJeansの部屋へYouTube

1980年の夏は、
まだ終わっていない。

歌は、いまも旅の途中だ。

A song from the summer of 1980 is still crossing the sea.

NEXT STORY

海を渡る歌の話を読んだ。
次は、故郷へ帰る歌の話を。