雪を抱く高地の山々と、風に揺れる五色の祈祷旗

NUJABES — THE FINAL VIEW

景色より先に、
音楽が旅を連れてくる。

読む 5分 / 聴く 18分
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01 / A LANDSCAPE BEFORE LANGUAGE

ここは、地球なのか。

眠って、目を覚ました。西寧からラサへ、青蔵鉄道の寝台列車で二晩を過ごした後だった。目を開けると、車窓の外には人の気配がほとんどない世界が延々と続いていた。

真っ青な空と、白いヒマラヤの稜線。そのコントラストだけで、頭の芯が冷えるような気がした。

空気は薄く、澄んでいて、かなり寒かった。息を吸うたびに、体の輪郭がはっきりする感覚があった。

「ここは、地球なのか。」頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。どこかの星に来たんじゃないか。月の表面みたいだった。

チベットに着いてからも、景色は終わらなかった。ネパールへ抜ける車移動でも、一本道とヒマラヤ山脈が、何時間も同じ角度で流れていく。

殺伐としてる。でも、宇宙みたいなんだよね。荒涼としているのに、どこか宇宙的だった。仙人って、本当にこういう場所に住んでるんじゃないか。そう思わせる土地だった。

気分は、ほとんど「無」に近かった。瞑想でもしているような、圧倒されるような感覚。その車窓に、頭の中でずっと同じ曲が鳴っていた。

LISTEN01 / THE FINAL VIEW
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02 / ONE QUESTION

なぜ、あの1曲だけだったのか。

あの旅で聴いていた曲は、ほかにもあった。プレイリストには、何十曲も入っていた。それでも、車窓に張りついて離れなかったのは、いつも同じ1曲だった。Nujabesの「The Final View」。

なぜ、これだけだったのか。

03 / THE SOURCE

答えは、フルート一本にあった。

1961年、テネシー州出身のジャズ・マルチ奏者、Yusef Lateefが、アルバム『Eastern Sounds』を録音した。収録曲のひとつ、「Love Theme From "Spartacus"」。静かなピアノのイントロから、Lateef自身が吹くバンブーフルートの旋律が立ち上がる。

2003年、Nujabesはこのフレーズをサンプリングして、アルバム『Metaphorical Music』収録の「The Final View」を作った。

チベットの車窓で鳴っていたのは、半世紀近く前に、誰かが吹いたフルートの記憶だった。

ヒマラヤの山道にはためく、五色の祈祷旗(ルンタ/タルチョ)Photo: Rajani Gairshail / CC BY-SA 4.0

04 / CHEMISTRY

景色と音が、重なる瞬間。

山道や峠で、ときどき五色の旗が現れる。ルンタ。乾いた風を受けながら、赤、青、黄、緑、白が、景色にほんの少しだけ人の祈りを足していく。

その反復に、The Final View のフレーズが重なった瞬間があった。

寿司の米、魚、わさび、醤油は、それぞれ単体では成立しない。重なった瞬間に、「これだ」となる。景色と音楽も、同じような化学反応だった。景色だけでも、曲だけでも、足りなかった。

気分は、また「無」に近づいていた。言葉を失う景色と、反復するフレーズが、同じリズムで動いていた。

「風景に合う曲」ではない。
音と景色が重なった瞬間に起きる、化学反応の話だ。

05 / ONE ROAD, TWO WORLDS

同じ一本道でも、ここまで違う。

Ry Cooderが手がけた映画『Paris, Texas』のサウンドトラックにも、一本道が流れている。乾いたアメリカの荒野、地平線まで続く道、擦れるようなスライドギターの音。

同じ「一本道」でも、チベットとテキサスではまったく違う。標高5000メートル近い薄い空気と、乾いた低地の熱風は、同じ孤独を運んでこない。

けれど、どちらも同じ問いに辿り着く。人が誰もいない場所で、何を聴くか。

06 / A ROAD IN JAPAN

祭りの花を買いに行く。

「祭りの花を買いに行く 村の鈴木商店へ」——ちあきなおみ「祭りの花を買いに行く」の歌い出しだ。作詞・作曲は友川かずき。ちあきなおみに詞を提供した「夜へ急ぐ人」と同じ書き手が、もう一つ託した曲だ。

都会育ちで、こういう田舎道を実際に歩いた記憶はない。それでも、ちあきなおみの声を通すと、隣町へ向かう田舎道や、よそゆきの服を着た子どもたちの景色が、ちゃんと立ち上がってくる。

これから、楽しいことが始まる。そういう静かな高揚感だけが、はっきり伝わってくる。

07 / TO YOU

風景が浮かぶ曲は、いい曲だ。

風景が浮かぶ曲が、いい曲とは限らない。でも、自分の中では逆が成り立つ——風景が浮かぶ曲は、絶対にいい曲だ。

あなたにも、聴くと景色が浮かぶ曲はないか。
今夜、もう一度聴いてみてほしい。

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