Hikigatari — Josh Turner edition · 5 songs

弾き語り・ジョシュ・ターナー編

終わりの季節から、寄り道して。
「風をあつめて」を一本の糸にして、ブルックリン、ロサンゼルス、ルーアンへ。5曲。

IN THIS ISSUE

渋谷の喫茶店のトイレの落書きから、
ブルックリンの部屋まで。

1971年の東京で生まれた日本語の歌が、日本語のまま、海の向こうで歌われている。その道を、寄り道しながらたどってみる。

最後は、フランスのバンドで軽く締める。

すべての起点

はっぴいえんど - 風をあつめて

1971

はっぴいえんど「風をあつめて」この曲のページへ →

アルバム『風街ろまん』の一曲。詞は松本隆、曲は細野晴臣Wikipedia。

詞のきっかけは、渋谷の喫茶店「マックスロード」のトイレの壁に書かれていた一行、「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った」だったCREA。

録音はドタバタだった。大瀧詠一と鈴木茂はスタジオに呼ばれず、松本のドラム以外は全部、細野がひとりで演奏。ギター、ドラム、ベース、オルガンを重ねても、まだメロディができない。スタジオの廊下でやっとできて、すぐに歌った。だから「起きぬけの」のところは、歌い間違えたまま残っているRe:minder。

2003年、映画『ロスト・イン・トランスレーション』で使われる。音楽プロデューサーが小山田圭吾に「この映画に合う日本の曲はないか」と尋ね、渡された音源の中から、ソフィア・コッポラと二人で選んだのがこの曲だったCINEMORE。松本隆は2024年にこう話している。「母国語は日本語。翻訳するのはフィルターをかけるようなもの。元の意味が変わってしまう」The Guardian。

メロディが完成したのは、スタジオの廊下(Re:minder)。名曲、意外と立ち話で生まれてる。

そして2020年。この日本語の歌を、ブルックリンの若者が、日本語のまま歌った。

1971年の東京の交差点Photo: wilford peloquin / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
1971年の東京、駅の売店Photo: wilford peloquin / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

僕が彼を知ったのは、このツイートだった

Josh Turner - 風をあつめて

2020

Josh Turner「風をあつめて (Gather the wind) - Happy End Cover」この曲のページへ →

送りバントの高山さんが「これ最高だから聴いてください」と投げていた。高山さんは、めっちゃ面白い人だ。その人が「最高」と言うんだから、押すしかない。押したら、本当に最高だった。……と書きつつ、正直に言うと、Priscilla Ahn の版を聴いていたのが先だったかもしれない。どっちが先でもいい。たどり着いた先が、この人だった。

ブルックリンを拠点にする、ギターも歌も鍵盤もやるミュージシャン。15歳だった2007年にYouTubeチャンネルを始めた。2014年、ポール・サイモン「Graceland」のカバーで『Good Morning America』に出ている公式サイトWikipedia。

決めごとがある。口パクも、ごまかしも一切なし。聴こえている音を、そのまま弾いて見せる。カバーする曲はアルゴリズムではなく、自分の好奇心で選ぶ公式サイト。

この動画を、作詞した松本隆本人が紹介している。「ドラムのフィルまで感じつかんでる」松本隆のX。

細野さんは先に知っていて、松本さんに「最近アメリカ人が日本語のままカバーしてるよ」と教えていた(松本隆のX)。はっぴいえんど、まだ連絡網が生きてる。

日本語の意味が分からなくても、この歌に惹かれた人は、ほかにもいる。

家でギターを弾くPhoto: Damien DeRose / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

カバーつながりで、ひとつ寄り道

Priscilla Ahn - 風をあつめて

2012

Priscilla Ahn「Kaze Wo Atsumete」この曲のページへ →

アメリカのシンガー・ソングライター。J-POPのカバー集『ナチュラル・カラーズ』に「風をあつめて」が入っていて、ほとんどの曲を日本語の詞のまま歌っているBARKSWikipedia。

選んだのは本人だった。「〈風をあつめて〉は、私からやりたいとリクエストした曲です。映画『ロスト・イン・トランスレーション』のサントラを聴いて、歌詞の内容はまったくわかりませんでしたが、すごく好きになりました。私もバンドの一員として部屋の中にいるような感覚になるんです」CDJournal。

寄り道のつもりが、ここで足が止まる。細野晴臣のもう一曲を、自分の声で歌った人がいる。

部屋でギターを抱えるPhoto: Shixart1985 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

寄り道の、さらに寄り道

rei harakami - owari no kisetsu

2005

rei harakami「owari no kisetsu」この曲のページへ →

細野晴臣が1973年の『HOSONO HOUSE』に入れた「終りの季節」を、レイ・ハラカミが本人の声でカバーしたNiEW。

この人の話は長くなるので、特集「君はレイ・ハラカミを知っているか」にまとめた。

最後は、フランスから。日本と縁の深いバンドで締める。

夕暮れの祇園の路地Photo: Moyan Brenn / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

最後に、これをどうぞ

Tahiti 80 - Heartbeat

1999

Tahiti 80「Heartbeat」この曲のページへ →

フランス・ルーアンの大学で結成されたバンド公式サイト。1999年、当時のマネージャーがフランスでコーネリアスのマネジメントも担当していて、デモを小山田圭吾に渡せた。小山田はそのデモ版「Heartbeat」を自分のコンピレーションに入れたCINRATime Out Tokyo。メンバーいわく「本当に幸運だった」CINRA。

デビュー・アルバム『Puzzle』は日本でゴールドディスクになり、その中でいちばん成功したシングルが「Heartbeat」だった公式サイト。

実は Tahiti 80 も「風をあつめて」をカバーしている。それも良かった。でも最後はこっち。これだけは絶対に紹介したかった。

関連動画 — Tahiti 80 の「風をあつめて」

Tahiti 80「風をあつめて」この曲のページへ →
バンド名は、ボーカルの父親が1980年にもらったお土産のTシャツから(公式サイト)。Tシャツ1枚で、バンドの名前が決まった事件。
ルーアンの大時計(タヒチ80の地元)Photo: DXR / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

一曲のカバーを追いかけたら、知らない人に会えた。

トイレの落書きから始まった歌は、まだ旅の途中だ。

次回の弾き語りもお楽しみに。

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▼この記事を書くきっかけになった動画

「なぜ、大人になると新しい曲を聴かなくなるのか【鳥類学×音楽心理学】」(汝、ヒトを知れ)

「歌を覚える季節は終わらない」

SOURCES

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