Feature — ユニークな曲たち · 15 songs + 別枠2 · vol.1
ユニークな曲たち〜かっこいいだけが、音楽じゃない。
1967年の早回しから、2021年の1億回再生まで〜
音楽には、泣かせる曲と、笑わせる曲がある。今日は笑うほうだけを集めました。
15曲と、別枠をふたつ。笑いは、いちばん手軽な元気の補給路です。
IN THIS ISSUE
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CHAPTER 01はたらきたくない
CHAPTER 02日本の米は世界一
CHAPTER 03島国DNA
CHAPTER 04帝国のマーチ
CHAPTER 05狩りから稲作へ
CHAPTER 06帰って来たヨッパライ
CHAPTER 07I'm the Urban Spaceman
CHAPTER 08俺ら東京さ行ぐだ
CHAPTER 09買物ブギ
CHAPTER 10さよなら人類
CHAPTER 11ヒゲとボイン
CHAPTER 12エビカニクス
CHAPTER 13ワンサカ娘'64
CHAPTER 14かむかもしかもにどもかも!
CHAPTER 15White & Nerdy
別枠 01亀有ブラザーズ
別枠 02空耳アワー「ナゲット割って父ちゃん」
「かっこいい」は、音楽の条件なのか。
前号「怒れる人々」では、音楽が怒りを預かる話を書いた。怒り、反抗、不満。それはそれで音楽の大事な仕事です。では、笑いはどうなのか。笑わせるために作られた曲は、音楽として一段下なのか。今回の特集は、その疑問を実際の曲で確かめに行きます。
集めたのは、生活密着型ラウドロック、リコーダーの帝国、歴史縛りのファンク、早回しの天国、大阪弁の早口、エアロビから生まれたエビとカニ。ジャンルはバラバラで、共通点はひとつだけ。聴いた人が笑うか、元気になるか、その両方か。年代も、1950年から2021年まで散らばっています。
そして大事なこと。笑える曲は、手抜きの曲ではありません。むしろ、笑いを取るには技術がいる。音程、言葉、間、オチ。笑わせる曲ほど、よく作られている。今日はそこを丁寧に見ていきます。最後に、音楽の「楽しみ方」そのものについての別枠もふたつ用意しました。
笑いは、いちばん手軽な元気の補給路です。それでは、扉をどうぞ。
生活密着型ラウドロック
打首獄門同好会 - はたらきたくない
2019
打首獄門同好会は2004年、音楽学校メーザー・ハウス在学中に結成された3ピースバンド。メンバーは大澤敦史(Vo.&Gt.)、河本あす香(Dr.&Vo.)、junko(Ba.&Vo.)。名乗っているジャンルは「生活密着型ラウドロック」「脱力系ラウドコア」。バンド名の候補は「打首獄門同好会」「切腹愛護団体」「終生遠島協同組合」で、意味は無いと本人たちは言っています。
「はたらきたくない」。曲名が、もう主張です。ラウドな音で、切実に、繰り返す。この曲を聴くと元気が出る、という感想が大量に集まるのが面白いところで、要するにこれは、疲れた人のための応援歌です。応援の内容は「働きたくない」ですが。
前号「怒れる人々」で書いた反骨の系譜は、たぶんここに続いています。怒りは叫ぶだけが形じゃない。笑いながら同じことを言う形もある。しかもこの曲、聴き終わりの顔が明るい。労働の歌なのに。
聴きくらべ — いちばん聴かれている打首
同じバンドが、日本の米を守る歌も作っている。次はそっち。
農林水産省が任命したロックバンド
打首獄門同好会 - 日本の米は世界一
2015 / 2019
2015年5月リリース。曲は、日本の米への愛をラウドに歌う。稲作の苦労、田んぼの景色、そして「世界一」という断定。歌詞に込められたのは、米を作る人の手ざわりです。
2019年5月13日、農林水産省はこのバンドを特別職「FANバサダーロック」に任命した。同日、当時の首相を表敬訪問。省の公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」にはジングルを提供している。2020年2月14日には「ミュージックステーション」に初出演し、この曲を生披露した。
この時期、日本の米の消費は長期的に減り続け、耕作放棄地も増えていた。行政が「おいしい」「すごい」と広報するだけでは届かない場所に、ロックバンドの声が届いた年です。
そして同じバンドは、日本人の「島国」なところまで歌い倒す。
島に住んでいる者のDNA
打首獄門同好会 - 島国DNA
2016
2016年8月24日リリースの2ndシングル。日本が島国であることから生まれる、遠慮、空気、境界の感覚を、ラウドロックで歌う。
「島国DNA」という言葉の強さ。批判でも礼賛でもなく、条件として置く。海に囲まれている、というだけの事実が、性格を作る。それを自虐でも誇りでもなく、そのまま歌にしてしまう。
この時期、日本の外から見た魅力と、内側の閉じた感覚の差が、あちこちで話題になっていた。島の話を、島の人間が、島の言葉で歌う。海の外に届くかどうかは、たぶん関係ない。内向きの歌ほど、外から面白がられる。
ここからは、曲そのものが「仕掛け」になっている曲へ。まずはリコーダー。
やる気のないダース・ベイダー
栗コーダーカルテット - 帝国のマーチ
2005
栗コーダーカルテットは1994年結成。リコーダーとウクレレをメイン楽器にするインストゥルメンタル・グループで、メンバーは栗原正己、川口義之、関島岳郎(近藤研二は2015年3月31日に脱退)。もともとは知久寿焼(元たま)のバックバンドとして始まった集まりです。
2005年、オムニバスアルバム『ウクレレ・フォース』に「帝国のマーチ」を提供。壮大なはずのスター・ウォーズのテーマが、リコーダーの柔らかい音で、脱力して鳴る。ラジオとネットで「やる気のないダース・ベイダーのテーマ」と呼ばれて広がった。壮大さと脱力のミスマッチが、そのまま人気になった。
2005年は『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』が公開された年。壮大さの頂点で、壮大さを脱力に置き換える。そして彼らは「ピタゴラスイッチ」をはじめ、テレビアニメやドラマのBGMを大量に手がけてきた人たちでもある。テレビの中の「なんか良い感じ」の正体が、この人たちでした。
聴きくらべ — 元ネタと、もうひとつの代表作
脱力の次は、歴史。日本史をファンクで歌う人がいます。
歴史縛りファンクネスバンド
レキシ - 狩りから稲作へ
2011
レキシは、ミュージシャン池田貴史(1974年2月15日生まれ)によるソロユニットであり、ユニットにおける本人の名前でもある。SUPER BUTTER DOGのキーボーディスト、100sのメンバーとして活動した後、造詣の深い日本史をコンセプトに立ち上げた「歴史縛りファンクネスバンド」。活動は1997年から。
「狩りから稲作へ」は2011年の曲。縄文の狩猟から弥生の稲作へ、暮らしが丸ごと変わる大事件を、ファンクのグルーヴで歌う。フィーチャリングは「足軽先生」こと、いとうせいこう、「東インド貿易会社マン」。ゲストには本名ではなく「レキシネーム」という歴史風の名前が与えられます。
2011年は東日本大震災の年で、暮らしの土台が揺れた年でもありました。その年に、米を作り始めた祖先の話をファンクで歌う曲が鳴っていた。偶然ですが、妙に効く並びです。
歴史を笑う。では、時代そのものを笑った曲は? 1967年に戻ります。
早回しの天国
ザ・フォーク・クルセダーズ - 帰って来たヨッパライ
1967
1967年12月25日、東芝音楽工業の洋楽レーベル・キャピトルレコードから発売。もとは、メンバーの芦田雅喜がヨーロッパへ旅立つことになった際の解散記念として録音した自主制作LP『ハレンチ』に収められていた曲です。カバー曲の中に1曲だけオリジナルを入れる、という方針から生まれました。
内容はこうです。飲酒運転で事故を起こして死んだ東北弁の主人公が、長い雲の階段を登って天国へ行く。ところが天国でも酒と美女に浮かれてばかりいたため、関西弁の「怖い神様」のお仕置きで天国を追い出され、生き返る。声はテープの高速回転で甲高く、神様の説教だけが通常速度。ラジオ関西で流れると大反響を呼び、「アングラ・フォーク」ブームを生み出しました。
1968年2月15日付で、オリコン史上初のミリオン・シングルに。1978年10月時点のオリコン調べで131万枚、シングル盤の累計売上は283万枚に達したとされます。そしてこの曲のヒットは、レコード業界に「原盤印税」という仕組みが適用された最初のケースになりました。
1967年は、学生運動が高まり、グループ・サウンズが街に溢れていた年。まじめなフォークの場から、笑える曲が飛び出して、社会現象になった。音楽の「笑い」が、初めて大きな数字を動かした瞬間です。
この曲が鳴っていた頃、海の向こうにも、本気でふざけているバンドがいました。
ポール・マッカートニーが偽名で手がけた
Bonzo Dog Doo-Dah Band - I'm the Urban Spaceman
1968
1968年10月11日リリース。英国のボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドにとって最大のヒットで、全英シングルチャート5位。作詞作曲はニール・イネス、プロデュースはポール・マッカートニー。ただし名義は「アポロ・C・ヴァーモス」という偽名でした。
歌の狙いは、1960年代の広告の空虚さへの風刺です。イネスは、戦後マンチェスターの「都市の空き地(urban space)」という言葉から、広告の中にしか存在しない理想の男「アーバン・スペースマン」を思い付いたと説明している。曲の終わりでは、ホースにトランペットのマウスピースとじょうごを付けて振り回した音が鳴る。マッカートニーはウクレレで参加しています。
1968年度のイヴォール・ノヴェロ賞でノヴェルティ・ソング賞を受賞。彼らは後にモンティ・パイソンになる面々の番組『Do Not Adjust Your Set』に出演し、その縁でモンティ・パイソンのライブでもこの曲が使われました。
1968年は、学生デモとサイケデリアが同時にあった年。真面目な若者と、ふざける若者が、同じ街にいた。この曲は、ふざける側が本気で作った曲です。
日本に戻ります。笑いを、言葉の勢いで作った人がいます。
ラップから生まれた田舎の歌
吉幾三 - 俺ら東京さ行ぐだ
1984
1984年11月25日リリース。作詞・作曲は吉幾三、初出アルバムは『俺らの唄を聴け』。
着想はラップ音楽でした。1977年に「俺はぜったい!プレスリー」がヒットした後、低迷期が続いていた吉は、アメリカに移住した知人から贈られたLPレコードでラップに触れ、そこからこの曲を作ったとされます。歌詞は、生まれ育った「無い物づくし」の田舎が嫌になって東京へ出ようとする、という内容です。
発売当初、出身地の青森県金木町からは「うちはそんなに田舎じゃない」と抗議があり、日本中の小さな農村から「私たちの村を馬鹿にしているのか」という大量のクレームが届いた。歌詞の「レーザーディスクは何者だ」という一節がきっかけで、パイオニアからレーザーディスクの再生装置と映像ソフトが贈られた、という逸話もあります。
オリコン週間4位、1985年度年間21位。オリコン調べの売上は35.1万枚、1985年8月31日時点の徳間ジャパンによる公称売上は70万枚。
1984年は、東京の土地価格が跳ね上がり始めた年。「東京」が特別な場所になり、地方との距離が数字で見えるようになった。この曲の「何もない」は、恨みではなく、報告です。
聴きくらべ — 公式チャンネルの映像
ラップが田舎を歌った。では、それより34年前のブギは、何を歌ったのか。
40品目を早口で並べる
笠置シヅ子 - 買物ブギ
1950
1950年6月15日発売。歌は笠置シヅ子、作詞・作曲は服部良一(作詞は村雨まさを名義)。吹き込みは同年2月11日でした。
歌詞は全て大阪弁。軽快なテンポで40品目の品物を歌い並べ、「オッサン、オッサン」と連呼する。立て板に水の能弁を主題にするやり方は、歌舞伎、落語、講談から屋台の口上まで、日本の芸能に長くあった形です。服部がそれをブギに翻訳し、笠置が表現した。
レコード売上は45万枚。この曲が「ブギ」ブームの最後の頂点で、以後ブギものは下火になったとされます。
1950年は戦後5年。まだ統制の記憶が残り、街の市場に品物が戻り始めた頃です。買い物という日常が、歌になるだけの明るさを持ち始めた年でした。
40年後、早口と変な声は、テレビから出てくるようになります。
イカ天から生まれた問い
たま - さよなら人類
1990
1990年5月5日リリース。作詞・作曲は柳原幼一郎、初出アルバムは『さんだる』。TBS系『三宅裕司のいかすバンド天国』の14代目イカ天キングとしてのメジャーデビュー作です。番組では1週目に「らんちう」、2週目に「さよなら人類」を演奏し、音楽性の幅を印象付けました。
オリコン週間シングルランキングで初登場1位、通算2週にわたって首位。累計59万枚、1990年度のオリコン年間シングルランキングでは4位に入りました。
曲は、人類への招待状のような、変な歌です。真面目なことを、変な声と変な間で歌う。だから、真面目に聞こえる。メンバーの石川浩司は、後の自伝でシングルのジャケットが打ち合わせと大幅に違い、発売延期を承知で変更を希望したメンバーもいたことを明かしています。
1990年は、バブルが崩れ始め、テレビからバンドが大量に生まれた年。イカ天は、素人のバンドが数週間で全国区になる装置でした。「変」が評価される土俵が、テレビの上にあった。その最後の時間の音です。
聴きくらべ — イカ天の2週目
翌年、その自由は、もう少し下品な方向にも開きます。
レコード大賞の盾に落書きした話
ユニコーン - ヒゲとボイン
1991
1991年10月25日リリース。作詞・作曲は奥田民生、初出アルバムは『ヒゲとボイン』。オリコン週間最高23位。
タイトルは、小島功の漫画『ヒゲとボイン』(1974年〜2011年、ビッグコミックオリジナル連載)から。由来が最高で、レコード大賞で授与された盾に奥田が落書きしたところ、それが小島の描く漫画に似ていたから。シングル盤のジャケットには小島功本人のイラストが使われています。
1991年は、バブル崩壊がはっきりした年。景気の話が暗くなる一方で、テレビと音楽はまだ明るく騒いでいた。前号「人が踊るとき」で書いたジュリアナ東京が開いたのもこの年です。世の中が沈む年ほど、下品で明るい曲が効く。
この曲には、POLYSICSがカバーしたバージョンもあります。原曲の脱力した変さを、さらに高速で弾き倒す。同じ曲が、別の笑い方になる。
聴きくらべ — POLYSICSのカバー
下品で明るい、と言えば。幼稚園から全国区になった曲があります。
エアロビから生まれた海の幸
ケロポンズ - エビカニクス
2002
2002年発売のアルバム『エビカニクス』に初収録。作詞・作曲は増田裕子(ケロ)。ケロポンズの楽曲です。
生まれ方がいい。子ども向けのダンスを考えているとき、「エアロビクスみたいなのを作りたい」と思い、その語感から「エビカニ」が浮かんだ。エアロビ未経験の2人が「こんな動きだったよね」とエアロビ的な動きを採り入れ、曲と歌詞を作った。サビは「エビ、カニ、エビ、カニ」の反復です。
2016年時点で公式動画は1500万回を超え、関連CD・DVDの累計出荷は10万枚を突破。2021年には公式動画の再生数が1億回を突破しました。2016年には歌詞を翻訳した英語版、中国語版、スペイン語版も公開されています。
2002年は、少子化が進み、子育ての環境が話題になり始めた年。大人向けと子ども向けの音楽がはっきり分かれていた時代に、この曲は幼稚園から家庭までを横につないだ。1億回再生の相当な部分は、たぶん保護者の再生回数です。
聴きくらべ — 海を越えたエビとカニ
さかのぼって、1964年。CMから生まれた笑える曲を見ます。
CMソングという遊び場
弘田三枝子 - ワンサカ娘'64
1964
元はレナウンのCMソングです。「レナウンの唄」に代わるテーマソングとして、1961年にかまやつひろしの歌唱で誕生し、作詞・作曲は小林亜星。長く使われたテーマソングで、古くは1964年の弘田三枝子、1965年のシルヴィ・ヴァルタンの歌唱が有名です。
同じメロディが、日本人歌手とフランス人歌手の両方で歌われた。言葉が変わっても成立する曲は、それだけ旋律が強い。CMソングは、いちばん短い時間で笑顔を作る仕事でした。
1964年は東京オリンピックの年。テレビが家庭に定着し、CMソングが日常の歌になった時期です。当時のCMは、曲そのものが作品として作られていた。小林亜星は、その職人の代表格でした。
聴きくらべ — フランスから来た娘
そして2019年、いちばん新しい笑う音楽が、NHKから来ます。
女の子たちが歌って広めた早口
MONO NO AWARE - かむかもしかもにどもかも!
2019
原曲はMONO NO AWARE(2013年結成、2015年に現体制。玉置周啓、加藤成順、竹田綾子、柳澤豊)が書き下ろした曲。作詞・作曲は玉置周啓で、NHK『みんなのうた』で2019年10月〜11月に放送されました。
「かむかもしかもにどもかも!」。意味があるようでない、噛み合う言葉の連打。みんなのうたという枠で、ここまで言葉で遊んだ曲は珍しい。噛む、しかも、にど、かも。日本語の音だけを並べた、ほぼ楽器のような歌詞です。
この曲を全国に広めたのは、ハク。というバンドのカバーでした。公開されたカバー動画は2400万回を超えて再生され、原曲の公式MV(約366万回)を大きく上回っています。女の子たちが輪になって歌う映像が、曲の「遊び」をそのまま可視化した。
2019年は、令和に改元された年。テレビよりSNSのほうが曲を広める力を持ち始めていた時期で、この曲はその順番(テレビ発→ネットで拡散)をきれいに体現しています。
原曲 — MONO NO AWARE 公式MV
最後に、海を渡ります。笑いを仕事にした男がいます。
パロディが本家に認められた
"Weird Al" Yankovic - White & Nerdy
2006
2006年、アルバム『Straight Outta Lynwood』からの2ndシングル。元ネタはチャミリオネアの「Ridin'」。曲をそのまま借りて、歌詞を全部「オタクの生活」に置き換える。
Billboard Hot 100で9位。ヤンコヴィックにとって唯一のトップ10入りで、1983年の初チャート登場から23年目での到達でした。RIAAのプラチナ認定も彼にとって初。全米とオーストラリアのiTunesストアで1位にもなっています。
本家の反応が、この曲のいちばん良いところです。チャミリオネアは自分のMySpaceにこの曲を載せ、ヤンコヴィックのラップを褒めた。第49回グラミー賞で「Ridin'」が最優秀ラップ・ソングを受賞した際には、レッドカーペットでヤンコヴィックに礼を言いに来て、「この曲のおかげで、あれが年間最高のラップ曲だというのが疑いようもなくなった」と述べたと伝えられています。
2006年は、YouTubeが始まった翌年、MySpaceが音楽の流通を変え始めた年。パロディが本家より先に広がる、という順番が普通になり始めた時期でした。
聴きくらべ — 元ネタ(2005年)
ここまでが本編、15曲。ここから先は、音楽の「楽しみ方」そのものについての別枠です。
別枠 — 笑いの作り方(1) 替え歌
亀有ブラザーズ - 知っている曲で全員を笑わせる
1991〜1996
『北野ファンクラブ』(1991年2月14日〜1996年3月23日、フジテレビ)は、「たけしのたけしによるたけしのためのテレビ」をコンセプトにした深夜番組でした。その中に、ビートたけしがヴォーカルを取る生バンドのコーナーがありました。メンバーはガダルカナル・タカ、つまみ枝豆、グレート義太夫。これが「亀有ブラザーズ」です。
やっていたのは、有名曲の替え歌です。元ネタは山本リンダ、チェッカーズ、ロッド・スチュワート、錦野旦など。歌詞は当時のテレビではそのまま放送できない内容が中心で、だからこそ深夜に人気を集めました。この記事では、歌詞の中身は書きません。書けないからです。
ここで書きたいのは、下ネタの内容ではなく、その構造です。彼らは、誰もが知っているメロディを借りて、その上に別の言葉を載せる。メロディが「共通の土台」として機能するので、言葉が何であれ、全員が同時に笑える。替え歌は、いちばん参加しやすい音楽です。口と、知っている曲がひとつあれば足りる。
1990年代前半は、テレビがまだ「何を言っても許される深夜」を持っていた時代でした。本物のロッカーが、下ネタ替え歌の後ろで演奏する。その余裕が、この時代の空気です。
聴きくらべ — メドレーで振り返る
もうひとつ、別の楽しみ方があります。歌詞を、勝手に聴くという遊びです。
別枠 — 笑いの作り方(2) 空耳
空耳アワー - ナゲット割って父ちゃん
2015
『タモリ倶楽部』の名物コーナー「空耳アワー」。外国語の歌詞が日本語に聞こえる、という投稿を紹介するコーナーです。2015年11月6日の放送で紹介されたのが「ナゲット割って父ちゃん」。
元ネタはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「Killing In The Name」。12回にわたって繰り返される「Now you do what they told ya」が「ナゲット割って父ちゃん」に、続く「Those who died」が「どうすんだい!?」に聞こえる、という投稿でした。
反響もすごい。この投稿は2週連続でジャンパー(コーナーの景品)が贈られるという、1995年5月以来20年ぶりの出来事になり、2016年3月11日放送の「空耳アワード2016後編」でグランプリに選出。投稿者にはさらにジャンパー3枚が贈られました。放送の翌日にナゲットが売れた、という話も披露されています。
空耳は、音楽のいちばん自由な楽しみ方です。英語が分からなくても、意味が分からなくても、音は勝手に言葉になる。しかも元の曲は、怒りの曲です。怒りの曲が、ナゲットになる。誰も傷つかない。この落差こそ、音楽の余白です。
聴きくらべ — そら耳アワード2016 優勝作品
本編15曲と、別枠ふたつ。ここまでが、今回の「笑える音楽」です。最後に、少しだけ。
音楽は、笑うためにある。それも、ちゃんと。
答え合わせをします。「かっこいいだけが音楽じゃない」——今日並べた15曲は、どれも笑うために作られています。でも、手抜きは一曲もない。テープの早回し、40品目の早口、リコーダーの脱力、替え歌の構造、空耳の偶然。笑いは、技術と発見の上にしか立ちません。
そして、笑いは元気を作ります。「はたらきたくない」を聴いて元気になる。怒りの曲の空耳で笑う。意味が通らない歌を歌う。音楽から元気をもらう、というのは、こういう形も含みます。悲しみを預けるのが音楽なら、楽しさを配るのも音楽の仕事です。
だから、もし今日の15曲の中に知らない曲があったら、ひとつだけ再生してみてください。笑ったら、それがこの特集の答えです。
最後にお願いがあります。この特集に入りきらなかった「笑える名曲」は、たぶん、まだまだあります。あなたの人生でいちばん笑った曲、家族や友人の間でだけ通じる替え歌、誰かに教えたくて仕方ない空耳。他にもおすすめのユーモアあふれる曲があれば、ぜひ教えてください。集まったら、第2弾を作ります。情報の出典がついていると、いっそう嬉しいです。
本編に収めた曲:はたらきたくない/日本の米は世界一/島国DNA/帝国のマーチ/狩りから稲作へ/帰って来たヨッパライ/I'm the Urban Spaceman/俺ら東京さ行ぐだ/買物ブギ/さよなら人類/ヒゲとボイン/エビカニクス/ワンサカ娘'64/かむかもしかもにどもかも!/White & Nerdy / 別枠:亀有ブラザーズ/空耳アワー「ナゲット割って父ちゃん」
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「歌を覚える季節は終わらない」
SOURCES
打首獄門同好会 - はたらきたくない
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