Series — You Make Me Smile · vol.1

あなたは、私のパワースポット。
〜ごきげんをくれる場所と、人と、歌〜

あなたがいるだけで、今日は少し機嫌よく始められる。
ここから7曲。人から場所へ、最後は自分へ戻ってくる。

これはB版(別の書き手による原稿)です。もうひとつの版(A版)は こちら →

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1936年、チャールズ・チャップリンは映画『モダン・タイムス』のために、のちの「Smile」になる旋律を書いた。けれど、その時点ではまだ「Smile」という題名も歌詞もない。歌になったのは18年後、1954年のことだった。

人がくれる元気から始めて、太陽、悲しい日の笑顔、友だち、テレビの夜の無茶振り、場所がくれる力、そして、いつもの景色まで歩いてみる。2026年の系統的レビューも、音楽と感情や人との結びつきの関係を扱いつつ、反応は人や状況によって変わると釘を刺している。「この曲で幸せホルモン増量!」ほど話は単純ではない。よかった。通販番組にならずに済む。

7曲それぞれに、独立した曲ページがある。気になった一曲から、好きな順にどうぞ。

朝を変える人を、クラブで鳴らした

Monday満ちる - YOU MAKE ME

シングル「YOU MAKE ME」 / 1998.7.23

Monday満ちる「YOU MAKE ME」1998年発表。大沢伸一プロデュースのシングル。この曲のページへ →

パワースポットと聞くと、だいたい木が太い。岩も大きい。できれば霧まで出ている。でも、月曜の朝にいちばん効くのは、案外そういう場所ではなく、「あの人に会える」という予定だったりする。だから最初の一曲は「YOU MAKE ME」。誰かがいるせいで、朝起きるのがちょっと楽しみになる。その、なんとも説明のつかない効能から始めたい。

Monday満ちるは東京生まれ、アメリカ育ち。母はNEA Jazz Masterのジャズ・ピアニスト、秋吉敏子。実父はサックス奏者チャーリー・マリアーノで、のちにサックス/フルート奏者ルー・タバキンのもとでも育った。しかも音楽家として世に出る前、1987年に相米慎二監督『光る女』の主演で映画デビューし、日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。その後1991年に音楽デビューし、日本のアシッド・ジャズを切り開いた一人になった。家の中からすでにジャズ濃度が高い。普通の「音楽のある家庭」の二段くらい上である。

「YOU MAKE ME」は1998年7月23日発売、大沢伸一がプロデュース。『Double Image』に入ったアルバム・ヴァージョンは6分13秒ある。朝の支度には少し長い。でも、こういう曲は歯磨きの時間を測るためにあるのではない。今日一日を「まあ、行ってみるか」に変えるためにある。

誰かに何かをしてもらったわけではない。ただ、その人がいるだけで、自分の機嫌が少し戻る。パワースポットは住所を持たないことがある。

誰か一人が一日を明るくするなら、
次の歌は、その人をとうとう「太陽」と呼んでしまう。

最初の四行、スティーヴィーは歌っていない

Stevie Wonder - You Are the Sunshine of My Life

アルバム『Talking Book』 / 1972.10

Stevie Wonder「You Are the Sunshine of My Life」アルバムの冒頭曲。最初の歌声はスティーヴィー本人ではない。YouTubeで見る →

まず、ちょっとした事件がある。「You Are the Sunshine of My Life」を再生して、最初に聞こえてくる男声。あれはStevie Wonderではない。冒頭の二行をJim Gilstrap、その次の二行をLani Grovesが歌い、そこからようやくStevieが入ってくる。本人の代表曲なのに、玄関を二人に任せている。太陽、意外と奥の部屋にいた。

曲は1972年10月発売の『Talking Book』の一曲目。Motownの公式アーカイブによれば、このアルバムの10曲はすべてStevieが作曲し、そのうち2曲を当時の妻Syreetaと共作している。「You Are the Sunshine of My Life」は翌1973年にシングル化され、米Billboard Hot 100の1位へ。1974年のグラミーでは最優秀男性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスを受賞した。

でも、この章で覚えておきたいのは1位でもグラミーでもなく、最初の四行だ。自分の曲の最初を、別の声に渡す。結果、ひとりの人を「私の太陽」と呼ぶ歌なのに、曲そのものは最初から複数の人でできている。

人のごきげんも、たぶん似ている。今日の自分を明るくしてくれたのが一人に見えて、その人だって、別の誰かにもらった光で立っている。太陽にも、太陽がいる。

1974年、グラミーを獲った歌の最初を歌っていたのは受賞者本人ではない。
代表曲で「まず他の人からどうぞ」ができる。器までサンシャイン。

ただ、毎日が晴天というわけにはいかない。
太陽が見えない日に残るものを、次の曲は1936年から知っていた。

夜明けの光がさす海辺の町(イラスト)

1936年には、まだ「Smile」がなかった

Michael Jackson - Smile

アルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』 / 1995.6

Michael Jackson「Smile」1936年の映画音楽が、1954年に歌詞と「Smile」という題名を得た。この曲のページへ →

「Smile」は最初から「Smile」ではなかった。チャールズ・チャップリンが1936年の映画『モダン・タイムス』のために書いた、インストゥルメンタルの旋律だった。映画の最後、チャップリン演じる男と少女が、うまくいかない現実の中からもう一度立ち上がり、道を歩き出す。その場面で流れる。歌詞はない。

それから18年。1954年、John TurnerとGeoffrey Parsonsの詞が加わり、「Smile」という歌になった。同年にはNat King Coleがヒットさせる。Michael Jacksonはさらに41年後、1995年6月のアルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』の最後にこの曲を置いた。1936年の映画音楽が、半世紀以上たって世界最大級のポップスターのアルバムの終点に来る。曲は長生きすると、ずいぶん遠くまで散歩する。

ここで大事なのは、「悲しいなら笑えばいい」という雑な話にしないことだと思う。そもそもの映画が描いているのは、工場の機械に振り回され、仕事を失い、何度もつまずく二人だ。悲しみを知らない人の笑顔ではない。

だからこの曲は、無理に口角を上げろという健康法より、もう少し人間くさい。笑えない日は、笑えないままでいい。それでも、隣に誰かがいて、いつか立てそうなら、そのくらいで十分なのだ。

「Smile」には、18年間「歌えない時代」があった。
理由はシンプル。歌詞がなかった。名曲にも、長めの無言期がある。

笑えない日に、立派な励ましは少し重い。
それより、呼んだら来てくれる人が一人いるほうが助かる。

同じ一月、二人が同じ友だちの歌を録った

Carole King - You've Got a Friend

アルバム『Tapestry』 / 1971.2.10

Carole King「You've Got a Friend」作詞・作曲はCarole King。James Taylor版は全米1位になった。YouTubeで見る →

1971年1月、Carole Kingはロサンゼルスで『Tapestry』を録音していた。同じころ、James Taylorも『Mud Slide Slim and the Blue Horizon』を制作していた。そのセッション期に生まれたのが「You've Got a Friend」。Carole自身の公式サイトによれば、本人があとから振り返っても、めったにないほど自然に生まれた曲だったという。

面白いのは、作者のCaroleだけでなくJames Taylorもほぼ同時期にこの歌を録音していることだ。Carole版は1971年2月10日発売の『Tapestry』へ。James版はシングルになり、Billboard Hot 100で1位。Caroleは作家として、この曲で1972年のグラミー「Song of the Year」を受賞した。『Tapestry』自体も同年の主要部門を含む4部門を獲得している。

ヒットの歴史だけ見れば、作者より友だちが歌った版のほうが先にチャートの頂上へ行ったことになる。でも、なんだかこの曲にはそのほうが似合う。自分で独占するより、誰かの声でも届けばいい。友だちというものも、たぶんそういう仕組みである。

用事はない。解決策もない。会ったところで、仕事のメールが減るわけでも、腰痛が治るわけでもない。それなのに帰り道だけ少し軽い。そういう人がいる。効能を説明できないところまで含めて、パワースポットだ。

「会うだけで元気になる友達って、本人は何もしてないんですよね。そこがいい。」

友だちは、呼んだら来てくれる。
では、笑いのプロから深夜に突然「曲つくって」と呼ばれた人たちは、どうしたか。一晩でつくった。

夕焼けの川べりに並んで座るふたり(イラスト)

さんまの無茶振り、一晩でエンディング曲

BEGIN - 笑顔のまんま

シングルCD「笑顔のまんま」 / 2009.1.7

BEGIN「笑顔のまんま」作詞は明石家さんま/BEGIN、作曲・編曲はBEGIN。YouTubeで見る →

2008年7月26日から27日に放送された『FNS27時間テレビ!! みんな笑顔のひょうきん夢列島!!』。総合司会は明石家さんま。その番組の途中で、さんまがBEGINに「エンディング曲を作ってほしい」と依頼する。普通なら会議をして、企画書を作って、デモを出して、そのうち誰かが「一度持ち帰ります」と言う案件である。テレビは持ち帰らせてくれなかった。

テイチクの公式ディスコグラフィーには、依頼は突然で、BEGINは「一晩で作り上げ」たとある。オリコンの当時の記事では、番組内の「さんま・中居の今夜も眠れない」でリクエストを受け、BEGINが不眠不休で仕上げ、番組のエンディングで披露したと記録されている。まさに「今夜も眠れない」。番組タイトルが制作進行表になってしまった。

CDになったのは翌2009年1月7日。名義は「BEGIN with アホナスターズ」。作詞は明石家さんま/BEGIN、作曲・編曲はBEGINで、のちに『さんまのまんま』のエンディングや、2009年のジョージアCM、沖縄国際映画祭でも使われた。

ここまで「笑顔」を扱ってきたけれど、この曲がおもしろいのは、健康本の一章みたいに「さあ笑いましょう」から生まれていないことだ。深夜の無茶振りと寝不足と、目の前にいる人たちを笑わせたいという現場からできた。笑顔は目標というより、あとから付いてきた結果だった。

曲は一晩。CD発売までは約5か月。
いちばん時間をかけたのは、たぶん流通。音楽業界、急ぐ場所が独特である。

ここまで、元気をくれたのはずっと「人」だった。
でも、誰も待っていない場所へ行くだけで、生き返る日もある。

お菓子のCMから、魔女の空へ

荒井由実 - やさしさに包まれたなら

3rd Original Single / 1974.4.20

荒井由実「やさしさに包まれたなら」1974年4月20日発売の、荒井由実3枚目のオリジナル・シングル。この曲のページへ →

この曲には、かなりかわいい出自がある。1974年4月21日、新橋・ヤクルトホール。荒井由実が東京で初めて開いたコンサートで、前日に発売されたばかりの新曲を紹介した。そのMCの記録が、現在もユーミンの公式サイトに残っている。そこで本人は、「やさしさに包まれたなら」は、あるお菓子会社のCMの仕事から一曲にしたものだと説明している。

つまり、いまや森や風景まで連想させるこの曲の入口は、お菓子のコマーシャルだった。1974年4月20日に3rdシングルとして発売され、15年後の1989年には宮﨑駿監督『魔女の宅急便』の挿入歌になる。スタジオジブリの公式資料にも、挿入歌「やさしさに包まれたなら」/歌:荒井由実、と明記されている。CMから始まった曲が、キキと一緒に空を飛んだ。

パワースポットも、そういうものかもしれない。有名な神社だから効く、絶景だから効く、という順番だけではない。いつもの森、決まった散歩道、何度も座った喫茶店の席。説明を始めると少し怪しいのに、そこへ行くと呼吸が戻る場所がある。

人の場合は「会うだけで元気」。場所の場合は「行くだけで元気」。どちらも、こちらからすると十分な事実である。Googleマップの口コミに「理由は分からないけど、なんか元気になる」と書いたら、たぶん一番参考にならない。でも本人には五つ星だ。

「以前、あるご縁で、地元の人も知らない沖縄のパワースポットに行ったことがあるんです。土地全体から磁石みたいにエネルギーが満ちていて、生えている植物がもうムキムキなんですよ。」

場所に力があるなら、最後はもっと大きくしてみる。
神社でも森でもなく、目の前の世界そのものへ。

木もれ日の参道と小さな社(イラスト)

米国で千枚未満、それでも世界は素晴らしい

Louis Armstrong - What a Wonderful World

シングル「What a Wonderful World」 / 1967

Louis Armstrong「What a Wonderful World」1967年8月16日録音。米国では発売直後、ほとんど宣伝されなかった。この曲のページへ →

こんなに穏やかな曲なのに、生まれた場所は穏やかではない。Bob ThieleとGeorge David Weissが「What a Wonderful World」を書いた1960年代後半のアメリカでは、ベトナム戦争、人種的不公正、女性の権利、環境破壊をめぐる抗議が続いていた。Louis Armstrong House Museumは、そうした社会状況の中で作られた歌だったと記している。

Armstrongがこの曲を録音したのは1967年8月16日。ところがABC-Paramountの社長Larry Newtonは、この曲を録ること自体に反対し、米国での宣伝を事実上止めた。プロデューサーBob Thieleによれば、発売後しばらくの米国セールスは1000枚にも届かなかった。一方、英国では1968年に1位となり、4週連続で首位に立つ。だいぶ極端な里帰りである。

さらに1987年公開の映画『Good Morning, Vietnam』で使われると、翌年の再発売で米Billboard Hot 100の32位まで上昇した。最初に売れなかった国で、20年後にようやくチャートへ戻ってきた。

そしてArmstrong自身がこの歌から思い出したのは、大げさな絶景ではなかった。ニューヨーク・クイーンズのCoronaで暮らした自分の近所だった。何世代もの子どもたちが育ち、家族が戻ってくる、ごく普通のブロック。彼にとって「素晴らしい世界」は観光名所ではなく、毎日見ていた町内だった。

そこまで来ると、パワースポットの輪郭が少し変わる。すごい場所でなくてもいい。励ますのが上手な人でなくてもいい。機嫌よくしてあげようと頑張らなくてもいい。誰かにとっては、いつもの景色の中にあなたがいること自体が、すでに「ここへ戻ってくるとほっとする」の一部かもしれない。

だから、これは「誰かのために笑顔でいよう」という話ではない。疲れた日は疲れた顔でいいし、笑えない日に笑う必要もない。Carole Kingの友だちみたいに、何もしていないのに効くことがある。パワースポット本人は、自分がパワースポットだと知らないくらいで、たぶんちょうどいい。

「伊勢神宮に行ったとき、本当にエクスタシーに近いような多幸感に包まれたことがあります。逆に東京に戻ると、木がコンクリートの間から申し訳なさそうに、一生懸命生えている。あれも、けなげで好きです。」

THE MAP — この号の7曲

  1. 01Original 1998Monday満ちる「YOU MAKE ME」1998年発表。大沢伸一プロデュースのシングル。
  2. 02Original 1972Stevie Wonder「You Are the Sunshine of My Life」アルバムの冒頭曲。最初の歌声はスティーヴィー本人ではない。
  3. 03Cover 1995Michael Jackson「Smile」1936年の映画音楽が、1954年に歌詞と「Smile」という題名を得た。
  4. 04Original 1971Carole King「You've Got a Friend」作詞・作曲はCarole King。James Taylor版は全米1位になった。
  5. 05Original 2008BEGIN「笑顔のまんま」作詞は明石家さんま/BEGIN、作曲・編曲はBEGIN。
  6. 06Original 1974荒井由実「やさしさに包まれたなら」1974年4月20日発売の、荒井由実3枚目のオリジナル・シングル。
  7. 07Original 1967Louis Armstrong「What a Wonderful World」1967年8月16日録音。米国では発売直後、ほとんど宣伝されなかった。

あなたがいるだけで、今日は少し機嫌よく始められる。

朝を楽しみにさせる人がいて、その人を太陽と呼び、笑えない日にチャップリンの旋律が残り、呼べる友だちがいて、テレビの無茶振りが一晩で歌になり、お菓子のCMが魔女と空を飛び、宣伝してもらえなかった歌が、いつもの町並みを「素晴らしい世界」と呼んだ。

最後に、もう一度、最初の一曲へ戻ってほしい。Monday満ちる「YOU MAKE ME」。今度は少しだけ、聴こえ方が違うかもしれない。自分が誰かを元気にしようと頑張らなくても、知らないうちに誰かの朝の理由や、帰ってくる場所になっていることがある。無理に笑わなくていい。そこにいるだけで効く人が、本当にいるから。

あなたのパワースポットは何ですか?

次回もお楽しみに。

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SOURCES

Monday満ちる - YOU MAKE ME

Stevie Wonder - You Are the Sunshine of My Life

Michael Jackson - Smile

Carole King - You've Got a Friend

BEGIN - 笑顔のまんま

荒井由実 - やさしさに包まれたなら

Louis Armstrong - What a Wonderful World

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